細胞内での局所的な張力分布の可視化を目指して、細胞骨格フィラメントのイメージング技術の開発を行った。精製したアクチン分子を有機蛍光色素により標識し、再構成後にファロイジンにより安定化したアクチンフィラメントを作製した。蛍光色素はいくつかの種類を検討した。次に、アクチンフィラメントに強く結合する変性ミオシン分子を表面に共有結合コートした直径1μmのポリスチレンビーズを作製した。このビーズと蛍光標識アクチンフィラメントをフローセル内に導入し、蛍光顕微鏡下において1本のアクチンフィラメントに対して2個のビーズを10μm程度の間隔で結合させ、それを2つの独立な光ピンセットによって保持して張力を加え、同時に蛍光強度を測定した。 検討した全ての蛍光色素について、程度の違いはあるが、張力を加えると蛍光強度が減少した。減少の程度は、アクチン分子の374番目の残基であるCystein(Cys374)をTetramethylrhodamine (TMR)で標識した場合はおよそ6%/10pNとなった。一方、Cys374をBodipy-TMRで標識した場合、またRhodamine-Phalloidinで標識した場合には、両者ともおよそ2%/10pNであり、蛍光標識の場所や蛍光色素の種類によって違いが見られた。また、蛍光分光器を用いてTMRとBodipy-TMRをCys374に標識したアクチン分子の重合に伴う蛍光強度変化を測定したところ、それぞれ1.6倍、1.06倍に上昇した。これは、単量体から重合体となることで蛍光色素の周囲微環境が水環境から疎水的環境に変化したことを示唆するが、蛍光色素の種類によって影響が異なるものと考えられる。以上の結果から、アクチンフィラメントに張力を加えることにより、蛍光色素周囲の微環境が単量体のそれに近づくと結論した。
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