受精後7.5日のマウス胚は体制も遺伝子発現も左右対称だが、腹側表面にあるノードと呼ばれる窪みの表面において、繊毛が時計回りに回転すること及びその回転軸が胚の尾側に傾いていることによって、体の左側に向かう水流を作る。この水流が左右非対称な遺伝子発現を誘導し、さらに左右非対称な内臓配置をもたらすことがわかっている。しかし水流が検知され非対称な遺伝子発現を起こす機構はよくわかっていない。この過程にCa2+シグナルが関わるという報告があったことから、我々はノード組織におけるCa2+を観察し、新しいタイプの細胞内Ca2+上昇を発見した。昨年度はこのCa2+上昇の経時的観察に必要な正立型2光子顕微鏡のシステムを整備し、今年度はCa2+パルスの時空間分布の解析、薬理的実験による分子的実体の同定を試みた。 前者については、まず発生ステージの関係については、ノード流のもつ非対称情報が下流に受け渡されるとされる最初の体節形成より前からCa2+振動は始まっていた。その後発生が進むにつれてCa2+振動を起こす個体の割合、振動自体の頻度ともに下がる傾向がみられた。空間分布については全ステージを通じて明確な左右差は見られなかった。つまり、左右差が生じることがCa2+上昇の原因であるという作業仮説に対しては否定的な知見が得られた。 後者については、EGTAによる細胞外液からのキレート、タプシガルギン添加による細胞内Ca2+のdepletionを試みたが、薬剤添加しつつイメージングを行うには胚の保持が不十分であり、まずこの問題の解決が不可欠であることがわかった。そのため、現在は胚の保持装置を作成中である。
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