本課題は、ヒト染色体の構成因子の量的な変動を、質量分析をもちいたプロテオーム解析により網羅的に明らかすることを目的としている。18年度までに、質量分析、インフォマティックス技術について沖縄大学院大学先行事業の長尾博士と協力することにより向上したため、クロマチン構成蛋白質の精製度については意識せず、ラフな分画を解析に用いるのがよいと判断した。 本年度は、質量分析を用いた定量プロテオミクスにより、非同調、Thymidine blockでS期に同調した細胞、TNI6(微小管重合阻害剤)でM期に同調した細胞集団について、非イオン性の界面活性剤(0.1% Triton)を含む干渉液中で細胞を処理し、100mM NaCl存在下で可溶化するものを細胞質画分あるいは核質画分、100mM NaCl処理による不要画分に対して500mM NaCl存在下で可溶化するものを染色体結合画分、500mM NaCl処理による不要画分を核マトリクスなどを含む画分として、その構成要素を同定と同時に定量した。その結果、500種類以上の蛋白質を同定することができ、それぞれの蛋白質のデーターベース上のannotationから判断してそのうちの1/3以上が染色体構成蛋白質と考えられた。また、MCM、核膜孔蛋白質、ヒストンなど、これまでの文献報告と同様に細胞周期依存的な染色体との相互作用が定量プロテオミクス解析により得ることができた。しかしながら、S期、M期、非同調細胞の比較では、染色体上で機能する重要な新規因子を抽出するには情報量が少ないことが判明した。今後、M期同調からリリースした同調細胞集団を用いて、同様の解析を行い、MCMやコンデンシンのように、染色体上に多く存在し、染色体のダイナミクスを制御する因子の同定を行う必要がある。
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