本年度は、出芽酵母の小胞体ストレス応答(UPR)で非典型的細胞質スプライシングを受けるHAC1 mRNAの動態解析とHAC1 mRNAの形成するRNPの解析を進めた。HAC1前駆体mRNA(HAC1^u mRNA)のスプライシングは、IrelpエンドヌクレアーゼとRlglpリガーゼによって司られるが、本来切断後のエキソンを基質として認識するRlglpが、HAC1^u mRNAと安定な複合体を形成していることを明らかにした。特に、出芽酵母のRLG1遺伝子をシロイヌナズナRLG1遺伝子(AtRLG1)で代替した株の解析から、この相互作用は核外へ輸送された後、細胞質のリボソーム上でも保たれており、RlglpとHAC1 mRNAの相互作用は成熟体HAC1 mRNA(HAC1^i mRNA)の翻訳制御にも関わることが明らかとなった。事実、AtRLG1株は正常にHAC1^u mRNAをスプライスできるものの、Haclpを効率よく翻訳できない。mRNA-タンパク質複合体(mRNP)の形成・動態にはRNAヘリカーゼが関与することが期待された。現在、翻訳に関わるRNAヘリカーゼDbp5p、Dhhlp、Dedlpなどが、RlglpによるHacl^ip翻訳制御過程に関与するかを検討しているが、ポジティブな結果は得られていない。他方、出芽酵母RLG1のUPR欠損変異株の単離から、ある程度HAC1^u mRNAのスプライシングが進むものの、Hacl^ipの翻訳量がUPRを引き起こすのに不十分である株が取得されてきており、出芽酵母Rlglpを含むHAC1^u mRNAのmRNP形成が、出芽酵母内でも翻訳制御に実際に働いていることが示唆された。
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