ゲノムの機能的収納機構を解明するために、昨年度に続き二つの視点から研究を進めた。ひとつは、プロモーター領域の機能的収納機構という視点で、もうひとつは、ゲノム全体を折り畳むために使われるDNAの物理的特性という視点である。 プロモーター領域の機能的収納機構については、負の超らせんを擬態した180塩基対の合成ベントDNA(T20)を用いた解析に加え、Z型DNAと十字架構造を用いた解析も行った。その結果、次の点が明らかになった。(1)T20は、未分化状態の細胞内でも分化後の細胞内でもプロモーターを活性化できる(マウスES細胞を肝細胞に分化させた実験の結果で、昨年度予備的な結果であったものを確認した)。(2)T20をもつレポーターは細胞核周縁部に存在する(lac0/lacl-GFP法を用いた予備的な実験の結果)。(3)T20は出芽酵母内でも遺伝子発現を活性化できる(明星大学・清水光弘博士との共同研究)。(4)Z型DNAにも、十字架構造にもプロモーターを活性化する構造がある(HeLa細胞を用いた-過的遺伝子発現系での実験結果)。以上のように、今年度は、プロモーター領域の機能的収納における超らせん擬態ベントDNAの効果が確認でき、加えて、他の高次構造にも同様の効果がある可能性を見出すことができた。 ゲノム収納とDNAの物理的特性との関係については、ヒトゲノム全域にわたる機械的特性(柔軟性)のマップを完成させた。そして、個々の染色体には機械的特性における特異領域(際立って柔らかい領域)が数Mbおきに存在することを発見した。ゲノムDNAの階層的折り畳みにおいて、30nmファイバーよりも高次の構造の実体は未だに不明である。我々が発見した特異領域は、染色体の構築機構における重要な構造因子である可能性があり、さらに解析を進めている。
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