本研究は、ゲノムを細胞核に機能的に折り畳むための遺伝情報を解明することを最終目標にしている。そして、本年度は、計画に沿って3つの解析を行った。以下に成果を報告する。 1. DNA高次構造のクロマチン制御能と遺伝子発現制御能の解析 : 一過的遺伝子発現系を用いた解析で、我々は既に遺伝子発現を活性化できる十字架構造とZ型DNA構造を見出していた。そこで本年度は、両者のクロマチン制御能の解析を中心とした解析計画を立てていた。しかし、再度検討した結果、この計画を実施するためには、まだ両構造の転写活性化能が不十分であることが判明した(実験的に検出できないほど僅かなクロマチン構造の変化でも転写活性に影響することがあるため)。さらに、この点を解決するためには、まずZ型DNA構造に的を絞り、転写活性化能を上昇させた上で次の解析に進むことが賢明であると判断された。そこで、新規のZ型構造の開発を引き続き行うこととし、これまでに転写を約25倍活性化できる構造を作製することに成功した。この他、マウスES細胞に導入した人工ベントDNAT20は、同細胞を肝細胞に分化させても転写を活性化する能力を保持していることを明らかにした。 2. 各種真核生物ゲノムの柔軟性地図の作成 : ヒト、チンパンジー、マウス、ショウジョウバエ、線虫、酵母、シロイヌナズナの各ゲノムの柔軟性を3bpまたは4bp単位で解析し、各ゲノムの全長に渡るDNAの柔軟性地図を完成させた。そして、どのゲノム上にも極めて柔軟な特性をもつ小領域(SPIKEと命名)が分布していることを発見した。 3. ヌクレオソームの自己集合能の解析 : ニワトリの赤血球から精製したコアヒストンと各種DNAを用いて試験管内でヌクレオソームを再構成した。得られたヌクレオソームの混合溶液を解析した結果、同じDNAをもつヌクレオソーム同士が集合する傾向があることが示唆された。
|