染色体は細胞が分裂する際、複製された遺伝情報(DNA)を2つの娘細胞に正確に分配するために必須な構造体である。それでは、分裂期染色体はどのようにして1本の長いクロマチン繊維から折り畳まれているのだろうか?これまで、分裂期染色体の高次構造解明のために、主として電子顕微鏡を用いた構造解析がなされてきた。しかしながら、顕微鏡観察は試料中における観察範囲が限定され、内在する規則性構造の全体像を捉えることが非常に困難である。このため、私たちはSPring-8 BL45XUでX線小角散乱解析(SAXS)をおこなっている(播磨研究所の伊藤らと共同研究)。SAXSは、計測したい非結晶試料にX線を照射し、その散乱パターンからその試料に内在する構造や規則性を知る手段である。現在までに染色体中に、コアヒストンの幅、ヌクレオソームの直径に相当する6nmと11nmnの散乱のピークを検出したが、それ以上の大きな構造は検出できなかった。このことから私たちは、染色体内には古くからのモデルが提唱するような明確な階層構造は存在しないのではないかと考えている(投稿準備中)。さらに、播磨理研の西野らと共同で、SPring-8 BL29XULのコヒーレントX線による単一のヒト染色体のイメージングもおこなっている(CXDM)。私たちは最近、このCXDMを用いてヒト染色体の3次元電子密度マップの作製に成功した(投稿中)。
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