研究概要 |
(1)高等植物や緑藻に特有に存在する酸素発生系タンパク質であるPsbPは、PSIIの活性化に重要な役割を持つ。PsbP発現抑制タバコでは、植物の環境応答において重要なPSII複合体の分子構築-分解修復系が活性化され、さらにはその中間体が蓄積する(井戸ら、投稿中)。19年度はPSII中間体の実体を、主にサブユニット組成の面から解析した。また、シロイヌナズナpsbP遺伝子破壊株と誘導型RNAiによるpsbP発現抑制体の作出を行った。 (2)現東京大学の大林武博士が開発したATTED-II等を用いたmRNA共発現ネットワーク解析が、酸素発生系タンパク質を始めとするチラコイド内腔タンパク質の機能推定に有効である事を認めた。 (3)PsbPはシアノバクテリアに存在するPsbPホモログ(cyanoP)に起源を持つと考えられる。分子系統解析から、より原核型PsbPに近いホモログ(PsbP-Like protein 1, PPL1)が高等植物におけるcyanoPのオーソログであり、PsbPは原核型PsbPから派生したパラログであることが示唆された。さらに高等植物にはPPL1により近いPPL2が存在することを認めた。PPL1/2の生理機能を明らかにすべく、遺伝子破壊株の単離をシロイヌナズナで行った。ついでATTED-IIを用いた共発現遺伝子の解析から機能推定を行い、それに基づいて各遺伝子の機能破壊株の表現形解析を行った。その結果、PPL1は強光下において傷ついた光化学系II複合体の修復過程に関わり、PPL2は循環的電子伝達に関わるNDH複合体の蓄積に必須である事を認めた。抗PPL抗体を用いた生化学的解析から、PPL1はチラコイドルーメン内に遊離して存在し、PPL2はNDH複合体の全く新規なサブユニットであることが示唆された。以上の結果からPPL1/2ともに環境ストレス下におけるチラコイド膜電子伝達鎖の機能維持に重要な役割を持つ事を明らかにした。
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