アルカロイドは強い細胞毒性を有し、補食生物や微生物・真菌による感染から植物を守っているとされる。タバコのアルカロイドであるニコチンは、傷害応答により根で生産誘導され、葉に転流されて蓄積するが、筆者はニコチン輸送体の有力候補として、MATE型トランスポータのcDNAを3種得ており、それらの膜局在性と発現特性、またニコチン輸送機能を総合的に解析する事で、障害・感染応答に関する高次機能発現に寄与する液胞機能について明らかにすることを目的としている。 19年度ではT-401と仮称しているMATEを優先的に解析をした。この遺伝子は根、茎、葉のいずれでも発現しているが、メチルジェスモン酸(MJ)の投与で全ての組織でその発現が上昇する。MJによる発現誘導は速やかで、約2日持続した。酵母にてT-401を発現させ、ニコチンの細胞輸送を測定した所、細胞外への排出活性を示した。T-401をGFP融合タンパクにして酵母で発現させると、予想通り細胞膜に局在していた。しかしその植物での局在は特徴的で、緑葉においては液胞に局在している事を、ショ糖密度勾配超遠心法による膜分画とウエスタンブロットにより証明したが、根においては細胞膜に局在する事が認められた。プロテオリポソームを使った輸送解析からは、この膜蛋白質はニコチン以外にもアルカロイドであれば基質として認識する事と、その駆動力はプロトン勾配である事が明らかとなり、プロトン対向輸送体としてアルカロイドを輸送するトランスポータである事が示された。これは、植物の液胞型アルカロイド輸送体として初めてのものである。
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