植物の生産するアルカロイドは、強い細胞毒性を有し、補食生物や病原微生物から植物を守っているとされる。アルカロイドは液胞内に隔離されることが多いが、これによりアルカロイドを安全に生産・蓄積しながら傷害ストレス時にはその機能が果たせる。 タバコのアルカロイドであるニコチンは、傷害応答等に応答し根で生産誘導され、葉に転流されて高蓄積する。申請者は、タバコ培養細胞BY2のニコチン生産がジャスモン酸で誘導されることを利用し、ニコチントランスポータの候補遺伝子としてMATEのcDNA3種を得た。本研究ではMATE蛋白について、その液胞局在とニコチン輸送機能を生化学的に解明し、根からのアルカロイド転流の分子機構の解明と、アンローディング時の物質移動の実態を突き止め、障害・感染応答に寄与する液胞機能について明らかにすることを目的とした。 Nt-T401(NtJAT-1と命名)については、特異的ペプチド抗体を用いて緑葉の液胞に局在すること、また酵母において発現させ明確なニコチン輸送活性を示すことを証明した。また、プロテオリポソーム再構成系を用いて、プロトン/ニコチン対向輸送体であることを示した。 Nt-C215は通常の育成条件下ではほとんど発現が見られないのに対し、ジャスモン酸投与で特異的、かつ飛躍的に発現が上昇することが判明した。またその発現組織は葉に特異的であり、他の組織では全く検出されなかった。なお、この遺伝子に関しては、パラログが存在しており、アミノ酸配列がわずかに異なるものが約3:1の割合で発現していた。 Nt-T449に関しては、ジャスモン酸に応答して茎での発現のみが上昇することが判明した。それぞれの発現パターンは特有であり、高次機能としては別々の役割を果たしていることが示唆された。
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