亜鉛に応答して変動するタンパク質群を同定するために、二次元電気泳動を利用して比較解析を行った。膜タンパク質の解析を行う場合、通常SDS-PAGEを用いるが、微量タンパク質は主要タンパク質に隠れてしまい検出できないことが多い。そのため膜タンパク質を効率良く可溶化するためにSDSを含む溶液でサンプルを溶解し、直接等電点電気泳動で分離するための手法を確立した。この結果、1.5%SDSを含む溶液でも効率良くタンパク質スポットを分離することに成功した。等電点電気泳動に供するサンプルをアセトン沈殿などで前処理すると、沈殿を再溶解する時に凝集したままで可溶化しないタンパク質を損失するが、本法は前処理を一切行うことがないため、より多くのタンパク質を解析対象とすることができると共に、定量性に優れているという特徴がある。次に発芽後10日目のシロイヌナズナに300μMを3時間処理し、根から抽出したタンパク質を二次元電気泳動にて分離し、未処理サンプルとの比較解析を行った。この結果、液胞膜に局在するVacuolar type H+-ATPase(VHA)のサブュニットAとE3の発現増加が見られた。VHAは液胞内へH^+を輸送し、酸性環境を作り出している。液胞膜にはH^+を駆動力として亜鉛を液胞内へと取り込む輸送体MTP(Metal tolerance protein)1が存在することから、植物細胞が過剰量の亜鉛にさらされたときに、液胞内のH^+濃度を高めることでMTP1による亜鉛の液胞への隔離を促進していると考えられる。さらに同条件にて亜鉛処理したシロイヌナズナからマイクロゾーム画分と細胞膜画分を抽出し、LC-MSを用いてショットガン解析を行った。この結果、亜鉛誘導されるタンパク質として小胞体に局在する亜鉛輸送体やトランスゴルジネットワークの分泌を活発化するsmall GTPaseなどが同定された。以上より、亜鉛に応答した細胞内膜輸送系を理解するための基礎的知見を得ることができた。
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