亜鉛濃度に応じて変動するタンパク質群を同定するために、LC-MSを用いたiTRAQ解析系を確立した。本実験にはシロイヌナズナ野生型Col-0を用いた。Col-0はMS培地に300μM亜鉛が含まれるときに、地上部のクロロシスや根の伸長阻害といった顕著な成育阻害を示すため、この条件を過剰量亜鉛培地とした。コントロールとして用いたMS培地、または過剰量亜鉛培地で10日間成育したCol-0の根よりそれぞれマイクロソーム画分を単離し、過剰量亜鉛に応答するタンパク質群の定量解析に用いた。この結果、輸送体などの膜タンパク質を含む1000以上のタンパク質について定量結果が得られた。このうち、まず注目したタンパク質はIRT1とFR02である。にれらタンパク質は鉄欠乏条件下において誘導され、FR02によって三価鉄から二価鉄へと還元され、二価鉄をIRT1が細胞内へと取り込む。過剰亜鉛条件において植物細胞内の鉄濃度が低下していることが予想されたため、ICP-AESにより元素分析したところ、確かに根においても地上部においても鉄濃度が優位に減少していたことから、過剰亜鉛によって鉄欠乏状態になることが示された。過剰亜鉛によるクロロシスは、鉄の添加により回復した。これはIRT1が亜鉛輸送能も有しているため、過剰な亜鉛がIRTIによる鉄吸収を阻害していると考えられる。一方、鉄添加によりクロロシスは回復したが、根の伸長はさらに阻害された。そこで次に、H^+輸送活性を持っV-ATPase複合体のサブユニットが減少していることに着目した。V-ATPase活性を測定したところ、通常の生育培地と比較して1/2程度に減少していた。これは、V-ATPase複合体を構成するCサブユニットの変異体det3の活性と一致した。さらに、根の成熟領域の細胞長を測定したところ、過剰亜鉛により細胞伸長が抑えられていること1が明らかとなり、これもdet3変異体の結果と良い相関を示した。このことから、過剰亜鉛による根の伸長阻害はV-ATPase複合体の活性低下がもたらしていると考えられる。
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