植物の小胞体ストレス応答で機能する転写因子AtbZIP60は通常は小胞体膜に局在し、小胞体ストレスにより、タンパク質レベルで切断され核へ移行する。AtbZIP60欠損変異体ではAtBiP3の誘導は殆ど起こらない。AtBip3プロモーターで制御されるGUS遺伝子を導入したシロイヌナズナではツニカマイシン処理により100から1000倍のGUS活性の誘導が確認された。この植物を用いてGUS活性を指標とし、ツニカマイシン処理によりGUS活性の誘導が起こらない変異体を単離すれば、その原因遺伝子はAtbZIP60タンパク質の切断に関与する可能性が高い。このようなアイデアのもとAtBiP3 :: GUSをホモに持つシロイヌナズナの種子にガンマ線及びEMSにより変異処理を行いそれぞれ約1000、5000のM2種子を収穫した。これらのM2種子から生じたM2植物を用いて変異体のスクリーニングを行った。これらの成果は植物で初めての膜切断型プロテアーゼの同定につながると期待される。AtbZIP60の誘導やタンパク質切断を引き起こす物質として、ポリアミン、サリチル酸に加えてプログラム細胞死を引き起こすフモニシンB1(FB1)を同定した。FB1はAtbZIP60の転写誘導を引き起こすとともにタンパク質レベルの切断も誘導した。少なくともBiPの顕著な転写誘導がFB1により起こらないことからFB1による効果は小胞体ストレス応答とは独立の情報伝達系により制御されていると考えられた。AtbZIP60の遺伝子破壊株ではFB1によるプログラム細胞死がより起こりやすくなっていた。この原因を調べるために野生型とAtbZIP60の遺伝子破壊株を用いてFB1処理における遺伝子発現のパターンをマイクロアレイ解析により調べた。これらの成果は植物における小胞体ストレスの生理意義の解明につながると期待できる。
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