研究概要 |
オートファジーとは, 細胞質成分を細胞内分解コンパートメントである液胞に輸送して分解する, 真核細胞に普遍的な細胞内分解システムである。我々は, シロイヌナズナにおいてオートファジーに必須なATG(autophagy-related)遺伝子群の果たす役割を解析し, (1)オートファジーが老化の抑制に関与していること, (2)オートファジー能欠損植物では, 病原菌感染時におこる過敏感反応細胞死の進行が早いこと, (3)ATG6遺伝子の変異が雄性不稔の表現型を示すことを示してきた. 老化と病原体抵抗性に関わっていると言われているサリチル酸に焦点を当て, その関与を検討した. サリチル酸をカテコールに転換する酵素遺伝子NahGを過剰発現させた植物, あるいはサリチル酸生合成, サリチル酸シグナリング系のmutantとの二重変異体ではオートファジー不能植物の老化促進表現型が抑制された. 一方で, ジャスモン酸やエチレンのmutantではその表現型が抑制されなかった. また, NahGにより老化促進表現型が抑制された植物にサリチル酸のアナログBTHを添加するとその抑制は解除された節以上の結果から, オートファジー不能植物ではサリチル酸生合成以後のサリチル酸シグナリングが過剰になっていることが示唆された. Atg6を含むシロイヌナズナのPI3K複合体の変異体が雄性不稔となるメカニズムの解明を進めた結果, PI3Kがおそらくは活性酸素種(ROS)などを介した花粉発芽のシグナリングを制御する一方, 花粉の発達(液胞形態の維持など)にも一部関与することが明らかとなった. さらに, 花粉特異的プロモーターを使った機能相補により, atg6変異体の雄性不稔を回避してノックアウト植物体を得ることができた.
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