性の二型性の存在は多くの生物に共通した根源的な生命現象であるが、性決定機構は生物種間で必ずしも保存されていない。これまでに脊椎動物の性決定遺伝子として、哺乳類のSRYとメダカDMYが同定されているが、脊椎動物の性決定機構の共通性と多様性を把握するためには、これら既知の性決定遺伝子に加えて、新規な性決定遺伝子の同定が必要であり、フグはその目的にかなった実験動物のひとつである。 今年度は、トラフグの性決定遺伝子をポジショナルクローニング法で同定する第一歩として、実験交配家系を利用した連鎖解析を行った。その結果、Y染色体上の数Mbの領域内にトラフグの性決定遺伝子が存在することが示された。この領域では精子形成過程における組み換えが抑制されていることも明らかとなった。この抑制の原因として、X染色体とY染色体の配列が分化していること、あるいは、性決定遺伝子の近傍にセントロメアが存在することが考えられた。トラフグの性染色体の進化に関する知見を得るため、比較ゲノム解析を行ったところ、トラフグの性染色体は、モデル魚類であるメダカやトゲウオの性染色体とは独立して進化したことが示された。また、性分化に関連すると予想される複数のトラフグ遺伝子の発現を、XX個体およびXY個体の未分化・分化中・分化後の生殖腺において定量RT-PCR法で調べたところ、未分化のXX個体で、XY個体に比べて多く発現する遺伝子を二つ同定することができた。
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