我々は、発生過程に関与する細胞死に着目し、細胞死シグナルの生理的な機能を探索するためにショウジョウバエカスパーゼ変異体を作成し、その細部にわたる解析を行った。その過程で雄性外生殖器の形成不全が観察されたことから、この研究課題において「外生殖器形成不全を規定する遺伝子の同定」及び、「生殖器形成に関わるカスパーゼシグナルとその制御機構の探索」を基幹実験テーマに据え、性分化メカニズムの-端を明らかにすることを目指している。ショウジョウバエの雄性外生殖器は、器官形成過程においてほ乳類の心臓などと同様に左右非対称に回転することが知られており、この回転が不完全だと外生殖器の形態が異常になり、雄性不妊となる。そこで本研究課題において、生きた個体を用いた生殖腺形態形成のイメージング解析法を確立して観察を行った。その結果、外生殖器の周りを取り囲む細胞が、集団で同一方向に移動していることで回転を制御している様子が観察された。一方、移動している細胞のさらに周囲を取り囲む細胞層では、細胞の移動は観られず、一部の細胞が死んでいることが明らかとなった。この細胞死を抑制することで回転異常を示すことから、外生殖器の器官形成における細胞移動と細胞死の相関が示唆された。細胞死の回転への寄与を定量化するために、正常な個体と細胞死を抑制した個体で回転のスピードを比較したところ、正常な個体において観られる回転速度の上日が、細胞死を抑制した個体では観察されず、一定の速度で回転して正常な個体と同じ時間経過で停止してしまった。この結果から、細胞死は発生の一定時間内に外生殖器の形態形成を完了するために重要な役割を持つことが示唆された(投稿準備中)。
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