脊椎動物における雌ヘテロ(ZZ/ZW)型の性決定の分子機構は、現在、ほとんどわかっていない。本研究では、遺伝学的にZZ/ZW型の性決定様式を持つと考えられていたアフリカツメガエル(X. laevis)において、我々が単離していた雌ゲノム特異的遺伝子DM-Wが雌を決定する性(卵巣)形成遺伝子である、という仮説の検証を行い、以下の成果が得られた。1、DM-WのFISH解析より、形態的に区別不能であった雌ゲノム特異的染色体(W染色体)を特定した。2、DM-Wは、性決定期のZW型個体の生殖巣で特異的に発現する。3、DM-Wは、そのパラログであり精巣形成遺伝子と考えられるDMRT1に比べ、初期性決定期の生殖巣で発現が著しく多い。 4、外来性DM-Wを遺伝的雄(ZZ)個体に導入したトランスジェニック幼生には、卵巣腔や卵母細胞を伴う卵巣構造が観察された。これらから、DM-Wは卵巣形成を誘導する性(雌/卵巣)決定遺伝子である可能性が強く示唆させた。以上の結果は、Proc. Natl. Acad. Sci. USAに2008年2月掲載された。 次に、DM-Wが頂点と考えられる卵巣形成の遺伝子発現ヒエラルキーの解明を目的とし、哺乳類・魚類で卵巣形成寄与が示唆されている遺伝子Fox12をX. laevisより新たに単離し、更にこれと、雌性ホルモン産生酵素アロマターゼの遺伝子Cyp19の発現解析を行った。両者とも性決定期・初斯陛分化期においてZZに比べZW生殖巣で高い発現が見られ、更に、外来性DM-W発現トランスジェニックZZ型幼生において、両遺伝子共に発現の上方制御が認められた。これらのことから、性決定期のZW個体では、DM-Wが、Fox12とCyp20の発現を何らかの因子を介して促進することによって、卵巣形成を導いている可能性が示唆された。
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