マウス性ステロイド核内受容体遺伝子ERα、ARについて、DNAメチル化状況が性特異的・脳領域特異的であること、及び共通してプロモーター領域に重なって新規アンチセンスRNA(ERαas、ARas)が発現することを発見していた。全身性強制発現(ERαas-Tg・ARas-Tg)マウスを作製し、配列特異的DNA脱メチル化/mRNA発現上昇/性行動異常を認めていた。本年度はまず別のエストロジェン受容体であるERβについて同様の解析を行い、性特異的・脳領域特異的DNAメチル化領域を同定した。雌の海馬、視索上核、室傍核、扁桃体が低メチル化、他の調べた全ての神経核で高メチル化、雄では上記4つの脳領域を含む全てが高メチル化状況にあった。プロモーター領域に発現する新規アンチセンスRNA(ERβas)は海馬、視索上核、室傍核に特異的に発現しており、性差も認められた。ERβas-Tgマウスは、やはり配列特異的DNA脱メチル化/mRNA発現上昇が認められたが、性行動に野生型との有意な差は認められず、脳の性差形成にはERα、ARが優位に働いていることが分かった。そこで、ERαとARに解析対象を絞って、胎生期からの脳領域毎のアンチセンスRNA発現パターン/クロマチン構造を解析した。ERαasの発現は生後0日では雄の側脳室周囲、前交連、分界条床核、尾状核/被殻に発現し、生後10日目までに分界条床核に限局した。雌では上記領域での発現は認められなかった。ARasの発現は生後0日では雌雄とも側脳室周囲、前交連に発現し、雄でのみ生後10日目までに背内側核、弓状核、腹内側核にも拡がっていた。ERα/ARともアンチセンスRNA発現に対応する発達特異的DNAメチル化/ヒストン修飾が認められ、内在性RNAの発現変化が配列特異的にエピジェネティック修飾を変換することで、マウス脳性分化に機能していることが強く示唆された。
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