(1) 昨年度、ヘリコバクターピロリ菌病原因子CagA全長タンパク質(約140kDa)を異所性に可溶性タンパク質として大量発現させることに成功し、組換えCagAのタンパク質を用いた構造解析結果から、CagAは二つのドメインで構成され、CagA生物活性に重要なC末端領域においては高次構造の存在が示唆される一方で、自由度の高い不規則構造も併せて存在していることを報告した。マイクロインジェクション法を用いて、組換えC末端フラグメントを胃上皮細胞へ直接注入し、組換えタンパク質の生物活性を細胞形態変化誘導活性を指標に検討した。その結果、不規則構造から構成されているC末端フラグメントは、全長CagAタンパク質と同様に細胞形態変化を誘導し生物活性を有していることが示唆された。CagAは生物活性に重要なEPIYA領域周辺を不定形構造として持つ内因性不規則構造タンパク質であることが示唆された。NMR解析を用いたC末端フラグメントとCagAの標的分子であるPAR1分子間相互作用の解析を進め、CagA分子内のPAR1相互作用に関わるアミノ酸残基の同定を進めている。一方、CagA分子のN末端フラグメントを用いた結晶化スクリーニングを行ったところ、複数の沈殿化剤によりN末端フラグメントのタンパク質結晶を得ることに成功した。セレノシステイン置換体等の調製を進め、得られたタンパク質結晶の構造解析を現在進めている。 CagA分子におけるPAR1結合責任部位の詳細を解析した。その結果、CagAは分子内の多量体化モチーフ依存的にPAR1と複合体を形成し、菌株間で見られるモチーフ内のアミノ酸置換に依存してPAR1結合能が大きく変化することが明らかとなった。
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