研究概要 |
日本の臨床分離VRE株(E, faecium)加ら新たに分離したpMG1型ハンコマイシン耐性高頻度接合伝達性プラスミドpHTβは、バンコマイシン耐性を他の腸球菌へ高頻度で伝達させると同時に宿主菌に凝集性を与える。pHTβはpMG1と遺伝子配列上高い相同性を示し、構造的に非常に近縁の伝達性プラスミドであることが示された。pHTβのトランスポゾンTn917-lacを用いた挿入変異プラスミドの作製分離とその解析から、プラスミド上の接合伝達に関与する3つの領域(Tra I, Tra II, Tra III)を同定した。さらにpHTβにコードされる凝集領域の解析を行った。凝集領域のクローン化、及びその遺伝学的解析から、凝集に必要な領域を決定した。凝集にはTra I内上流域に存在するORF9~ORF13の5個のORFが関与していた。この領域の転写を調べたところ、ORF9上流の高いプロモーター活性領域から始まる長い転写産物が検出され、これらのORFはオペロン構造を形成していた。またTra II領域内のORF56のトランスポゾン挿入変異あるいは欠失変異は伝達性と凝集性を失っており、同時にORF10、ORF13の転写活性も著しく低下していた。それらの形質はクローン化したORF56により相補されたことから、ORF56はプラスミドの伝達性、凝集性を転写活性レベルで正に調節する遺伝子であることが示され、traBとした。traB上流には恒常的な活性を示すプロモーターが存在し、traB下流に位置するtraAとオペロン構造をとっていた。pMG1にコードされ、traBと同等の遺伝子である710RF1のプラスミドを作成し解析した。予想に反し、pMG1のtraB同等変異プラスミドは伝達性を完全には失わず、野生型と比べその伝達頻度は十分の一程度の低下であった。この結果はtraBがTra Iの凝集遺伝子領域および接合伝達遺伝子領域の転写活性を別め因子を介し、おそらく間接的にORF9上流のプロモーター領域に働くことにより調節していることを示唆している。
|