Trypanosoma cruzi感染宿主細胞ではdeath receptorを介するアポトーシスが抑制され、宿主抑制因子c-FLIPの発現が上昇していることを明らかにしてきた。c-FLIPタンパク質はユビキチンープロテアソーム系により分解されることが知られているが、がん細胞などでは分子内のシステイン残基がニトロソ化されることによりユビキチン化が起こらず、細胞内に蓄積されることが報告されている。そこで、T.cruzi感染細胞においてc-FLIPのニトロソ化が起きるかどうか調べた。ヒト由来培養細胞にT.cruziを感染させ2〜4日培養し、ライセートを調整した。抗c-FLIP抗体により免疫沈降し、上清および沈殿画分について抗ニトロソシステイン抗体でイムノブロットを行った。非感染細胞では沈殿画分にc-FLIPが検出されたがニトロソ化されているものはほとんど認められなかった。一方、感染細胞では沈殿および上清画分にc-FLIPが認められ、上清画分では抗ニトロソシステイン抗体に反応するバンドが検出された。以上より、感染細胞のc-FLIPはニトロソ化が起こっている可能性が示唆された。タンパク質のニトロソ化が起こる背景には細胞が酸化ストレスに曝されている可能性がある。そこで、感染細胞における酸化ストレス関連遺伝子の発現について検討した。その結果、感染により、グルタチオンペルオキシダーゼ、dual specificity phosphatase1、cAMP-dependent protein kinaseや活性窒素の生合成に関与する遺伝子の発現が上昇した。感染72時間後ではそれらに加えてIL-8、NOS2A(iNOS)、ペルオキシレドキシン、SOD2などの遺伝子発現が上昇することがわかった。以上より、T.cruzi感染により宿主細胞内で活性窒素の産生が起き、関連遺伝子の発現が起きることが示された。
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