背景と目的:我々はHIV-1インテグラーゼと結合し、ウイルスゲノムの逆転写過程をサポートする宿主因子Gemin2を同定した。本研究ではGemin2とインテグラーゼの相互作用とその意義を解析するためのインテグラーゼヒト細胞内発現系を確立した。この発現系用いてインテグラーゼの細胞内における細胞内局在、安定性、多量体形成等の性状解析を行い、Gemin2の具体的機能関与を検討した。 結果:1)CMVプロモータ下流にβグロビンイントロン配列を挿入することによりインテグラーゼのヒト細胞内発現を10倍近く向上させることができた。2)ヒト細胞内発現させたインテグラーゼは非常に強く核局在した。3)種々のインテグラーゼ欠損変異体を同様に解析したところ、インテグラーゼの核局在には、全長の配列が必須であることが示された。このことはインテグラーゼの安定した核局在には、全長配列を必要とする多量体形成が必須であることを示唆する。4)ウイルス複製において逆転写過程に障害を及ぼすインテグラーゼ点変異体もすべからく核局在能の低下を認めた。5)ウイルス複製において逆転写過程に障害を及ぼすインテグラーゼ点変異体の細胞内安定性も野生株と比較して低下していた。この低下は、プロテアゾーム阻害剤MG132処理により回復した。6)ナイーブPAGE法により、インテグラーゼの細胞内多量体形成能を検討したところ、野生体では、二量体、4量体形成が確認されたが、転写過程に障害を及ぼすインテグラーゼ点変異体すべからく多量体形成能の著しい低下を認めた。7)RNA干渉により、Gemin2を低下させた細胞において、インテグラーゼの細胞内局在は影響されなかったが、安定性が顕著に低下することを見出した。 考察:Gemin2はHIV-1インテグラーゼの多量体化を安定させプロテーゾーム依存性分解から保護することが示された。このことは、インテグラーゼの安定性が、ウイルス複製における逆転写過程に重要であることを示唆する。インテグラーゼの安定性に関与する宿主因子の解析は、今後の新規抗ウイルス戦略においても重要な知見であると考える。
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