マラリア原虫は各感染ステージに特異的な遺伝子群を発現することで、異なる宿主環境に巧みに適応している。しかしながら、その遺伝子発現調節機構はこれまで解っていなかった。また遺伝子発現調節の主役であるはずの転写因子も同定されていなかった。近年マラリア原虫のゲノムにAPETALA 2(AP2)ファミリー転写因子に相同性を持つ遺伝子群が発見された。申請者らはそのうちの一つ、AP2-O(AP2 in ookinete)と名付けた転写因子が、蚊への侵入ステージであるオオキネートの遺伝子発現を制御していることを見出した。AP2-Oは雌雄ガメートの接合数時間後からザイゴートの核に観察され、その発現量はオオキネートの形成に伴い増大していた。AP2-Oノックアウト原虫を作成し、その表現型を解析したところ、ノックアウト原虫は赤血球感染ステージにおいては正常な表現型を示したが、蚊への感染能を完全に喪失していた。DNAマイクロアレイにより、ノックアウト原虫のオオキネートで発現が減少した遺伝子を解析したところ、15種類の遺伝子の発現が顕著に減少していることが判明し、これらの遺伝子がAP2-Oの標的遺伝子であることが推定された。また感染血液を用いin vitroでオオキネートを培養したところ、オオキネートのに態は異常であったことから、標的遺伝子のうちにはマイクロネーム蛋白の様に直接宿主への侵入に関わるものだけでなく、侵入のための形態(アピカルコンプレクス)や分子モーターを形成するために必要な遺伝子など、広く侵入に関連する遺伝子が含まれている可能性があると推測された。さらに肝臓感染のステージであるスポロゾイト期においてもその遺伝子発現を制御するAP2ファミリー転写因子、AP2-Spを同定した(未発表データ)。
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