研究概要 |
ボルナ病ウイルス(BDV)は、レトロウイルスを除く動物由来RNAウイルスの中で、唯一、細胞核で持続感染する。本研究は、宿主染色体を巧みに利用したRNAウイルスの複製基盤を明らかにすることを目的に遂行された。本年度は、BDVリボヌクレオ蛋白質複合体(RNP)の複製と持続感染におけるクロマチン結合因子HMGB1(High mobility group box 1 protein)の役割について詳細な解析を行った。 siRNAならびにshRNAを用いて、BDV持続感染細胞におけるHMGB1のノックダウンを行った。また、リバースジェネティクス技術を用いて、HMGB1との結合能力を欠損させた組換えBDVを作製した。HMGB1欠損細胞ならびに組換えBDV感染細胞におけるウイルス複製とRNPの核内安定性について解析を行った。その結果、HMGB1欠損持続感染細胞では、クロマチンに結合しているウイルスRNA量が減少することが示された。また、分裂期クロマチンに結合しているRNPも著減することが明らかとなった。一方、shRNAの標的配列に変異を入れたHMGB1エスケープ変異体の導入により、RNPの分裂期クロマチンへの局在と持続感染が回復することが示された。HMGB1との結合能力を欠損したP蛋白質を持つ組換えBDV(rBDV-E84QとrBDV-E84N)は野生型BDVと比較して、いずれもVeroとOL細胞での複製能力が顕著に低下しており、持続感染を成立できないことが明らかとなった。さらに、rBDV-E84Nでは、継代によりP蛋白質のアミノ,酸変異が誘導され、HMGB1との結合能力を回復することが示された。 以上の結果より、P蛋白質とクロマチン結合因子HMGB1との結合が、クロマチン上でのウイルスRNPの複製と安定化に重要であることが示された。現在、BDV RNPの複製とクロマチンの構造的特異性についてさらなる解析を行っている。
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