TRIM5αはアカゲザルにおけるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染抵抗性因子として2004年に同定された。レトロウイルスに対する自然免疫を担う重要な分子であるが、その感染阻害の分子機構は明らかにされていない。また、HIV-1以外のレンチウイルスに対する効果はその一部しか解明されていない。ヒト免疫不全ウイルス2型(HIV-2)は、株間でサル細胞への感染性が大きく異なることが知られているが、本研究は、HIV-2株間の感染性の違いがサルTRIM5αとの反応性の違いによるか否かを明らかにし、株間でサルTRIM5αとの反応性に違いが認められた場合にはその反応性の違いを決定しているHIV-2側の責任遺伝子領域を同定することを目的とする。 ヒトCD4陽性T細胞株にカニクイザルのTRIM5αを発現させ、8株のHIV-2のTRIM5α感受性を検討した。その結果、2株が感受性、6株が耐性であった。各HIV-2株のTRIM5αの標的とされるカプシド蛋白質(CA)をコードするHIV-2ゲノムの塩基配列を決定したところ、感受性株は120番目のアミノ酸がプロリン(P)、耐性の株ではグルタミン(Q)あるいはアラニン(A)であった。そこでTRIM5αに感受性のGH123株の分子クローンのCAの120番目のPをQあるいはAに置換したところ、どちらの変異体もTRIM5α耐性に変化した。 HIV-2のCAの120番目のアミノ酸の変異がCAの三次元構造に及ぼす影響を検討するため、X線結晶構造が明らかになっているHIV-1のCAの構造を基にして、HIV-2のCAの三次元構造をコンピュータで予測した。その結果、120番目のアミノ酸はCAの6番目と7番目のアルファヘリックスの間のループの中にあり、CAの外側に位置していた。また、120番目のアミノ酸がPからQやAに置換すると、120番目のアミノ酸を含むループの構造が大きく変化することが明らかになった。これらの結果から、HIV-2のCAの120番目のアミノ酸を含むループがTRIM5αと直接結合するものと思われる。
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