研究課題
多剤耐性菌の出現が医療現場において大きな問題となっており、今日もなお感染症の克服は医学的重要課題の一つである。一方で、ゲノム配列が次々と解読され、細菌染色体上には、多数の多剤耐性遺伝子が潜在していることが明らかになってきた。私はこれまでに、ゲノム博報をもとに、推定異物排出蛋自質遺伝子とその制御遺伝子を網羅的に解析することで、数多くの耐性因子を同定してきた。これからは細菌が保持する薬剤耐性因子および、これらの制御ネットワークをゲノムワイドに包括的に解析する必要性がある。本研究では細菌ゲノムが保持する薬剤耐性因子を網羅的に解析し、薬剤耐性克服のための情報基盤を構築することを目的とする。本年度得られた成果は以下の通りである。1) 細菌はゲノム上に多くの環境適応・耐性因子を保持している。異物排出蛋白質遺伝子はゲノムに存在する基本的な生存戦略因子である。近年、薬剤耐性サルモネラの出現が問題となっている。サルモネラ薬剤耐性化機構を明らかにするために、サルモネラ異物排出蛋白質遺伝子全てを欠損させた株を作成し、フェノタイプマイクロアレイを用いて、フェノーム解析を行った。その結果、排出蛋白質は臨床現場で用いられる薬剤に対しての耐性に関与していることを見出した。また、金属耐性にも排出蛋白質が関与しているという新たな生理機能を発見した。2) サルモネラ異物排出蛋白質は薬剤耐性のみならず病原性発現にも関与していることが分かっているが、病原性に関わる機構はこれまで不明であった。フェノーム解析とトランスクリプトーム解析の結果、異物排出蛋白質AcrDとMdtABCは鉄代謝制御因子Fur依存的に鉄欠乏条件下で誘導され、これら排出蛋白は外環境から鉄を獲得するために鉄キレーターを排出していることを明らかにした。鉄は細菌病原性発現に必要な因子であることから、排出蛋白質による鉄キレーター排出が細菌病原性発現に関与していることが強く示唆される。本研究成果は、耐性菌感染症を克服するのに重要なものであると評価され、日本抗生物質学術協議会および日本化学療法学会より表彰を受けた。
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