研究概要 |
本研究は「マラリアと住血吸虫症を克服する新しい抗寄生虫薬の開発」を研究目的としている。 今年度はこの目標に基づいて、我々の開発した抗マラリア作用のある環状過酸化化合物を用いてマンソン住血吸虫に対する阻害効果を解析した。 1.マンソン住血吸虫をマウスに感染させた後、1・2日目,4・5日目,7・8日目,14・15日目及び5週目,6週目,7週目に環状過酸化化合物を投与し、感染9週目に虫体及び虫卵を回収、計数した。その結果、感染2週目に投与したマウスで虫体数がコントロールの14%に減少した。また、感染5週目に投与したマウスでは虫体数は変化なかったが、虫卵数は13%になった。更に、2週目、5週目投与のいずれの場合にもマウス内臓の病変が顕著に抑制されていた。これらの結果からこの環状過酸化化合物は有望な新規抗住血吸虫薬の候補化合物であるといえる。 2.環状過酸化化合物の抗住血吸虫効果をタンパクレベルで解明するため、プロテオーム解析を行った。感染2週目投与では虫体数が少なく、必要なタンパク量が得られ癒かったため、感染5週目に環状過酸化化合物を投与した住血吸虫を回収し、超音波破壊して可溶性画分を分画した。この画分を用いて二次元ゲル電気泳動、MALDI-TOF/TOF MS によるプロテオーム解析でコントロールど比べて変動のあったタンパク質を同定した。その結果、構造タンパク質、heat shock protein,シグナル伝達系等,種々の機能を持つタンパク質が同定できた。これらのタンパク質は間接的に産卵能の抑制に関与している可能性がある。しかし、オスのタンパク質が大量にあるため、直接虫卵数の減少に関与していると思われるメスのタンパク質は特定できなかった。そこで次回は雌雄の分離をした上でプロテオーム解析を行う予定である。メスの虫体から得られたタンパク質の変動を調べることで環状過酸化化合物による虫卵能の抑制に直接関与しているタンパク質、すなわち標的分子の特定が可能となると考えられる。
|