研究概要 |
我々が抗マラリア薬の候補として開発を進めている環状過酸化化合物N-89はマンソン住血吸虫に対しても有効であり、マウスに感染後2週目の投与で虫体殺滅効果を、5週目の投与で虫卵数の減少とマウス内臓の病変抑制効果を示すことは昨年度までに明らかにした(特許出願済)。今年度はN-89の住血吸虫に対する阻害機構の解明を目的として昨年度に続きプロテオーム解析を行った。また、in vitroにおけるN-89の虫体に対する作用も検討した。 感染5週目のマウスにN-89投与による産卵能の抑制効果は投与後4週目以降まで持続していた。このことから、虫体内で不可逆的に阻害されているタンパク質があると考え、N-89投与後2週間目の虫体タンパク質の解析を行った。産卵能抑制時に関わる標的分子探索のため、雌雄の虫体を別々に回収し、それぞれのプロテオーム解析を行った。その結果、雄の虫体で構造タンパク質が多く変動していた。これはN-89作用により雄の虫体が大きな形態変化を起こしていることを反映していると思われる。構造タンパク質以外にもprotease, signal伝達系のタンパク質等が変動していた。また、雌の虫体で変動していたタンパク質は解糖系酵素、ストレス応答タンパク質、シグナル伝達系のタンパク質等であった。これらproteome解析で同定されたタンパク質と産卵能の抑制効果との関連については現在検討中である。 一方、in vitroにおいてマンソン住血吸虫成虫にN-89を250nMで直接作用させると虫体の形態変化を起こし、pairingが解消され、さらに殺滅効果のあることが判ったが、成虫虫体表面の形態的な変化は電子顕微鏡で認められなかった。したがって、N-89は住血吸虫成虫のtegmentに障害を与えているのではなく、sexual maturationを妨げることによってpairingを阻害し、産卵能の抑制を起こし〓
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