HIV-1の種トロピズム(サル細胞での非増殖性)の分子機構を明らかにするため、我々が構築した種々のサル細胞指向性HIV-1(共通の基本構造 : Gag-CAのヘリックス4/5ループとVifのみがSIV mac239由来)について分子ウイルス学的解析を行なった。サル細胞で増殖効率の良いウイルスクローンのゲノム構造を決定することにより種トロピズムの分子基盤の解明を目指した。カニクイザル細胞HSC-Fでの長期培養により、この細胞における増殖効率が著しく向上したMN4(X4ウイルス)とMN5(R5ウイルス)クローンを得た。細胞馴化に伴う変異はゲノム上に10(MN4)あるいは6(MN5)個確認されたが、増殖効率の増強に貢献している変異は、それぞれ、Pol-INとEnv-gp120の一アミノ酸変異の二ヶ所のみであった。変異Env-gp120の機能・構造解析はこの結果を良く支持していた。MN4およびMN5のGag-CAのヘリックス6/7ループをSIV mac239型に置換したクローンを作製したところ(MN4SおよびMN5S)、カニクイザルPBMCでの増殖効率が格段に向上した。MN4SおよびMN5Sから、アカゲザル細胞HSR5.4での増殖に馴化・適応したクローン(MN4RhおよびMN5Rh)も得られ、SIV mac239に比肩できるほどに増殖能が改善された。以上の成績から、HIV-1の種トロピズムには、Gag-CA(ヘリックス4/5および6/7ループ)とVifとが決定的に重要であり、さらに、EnvやPolの機能もこれに関係している可能性が示唆された。
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