AIDSはHIV感染によって引き起こされる免疫不全症であり、有効なワクチンがなく、先進国においても感染者が急増していることから、大きな社会問題となっている。DOCK2は線虫のCED-5、ショウジョウバエのMyoblast Cityの哺乳類ホモログで、免疫系特異的に発現する分子である。我々はこれまでに、DOCK2がリンパ球の遊走や免疫シナプス形成に不可欠なRac活性化分子であることを明らかにし、そのシグナル伝達機構の解析を精力的に進めてきたが、興味深いことに最近、HIVのNefを強制発現したJurkat T細胞株において、DOCK2がNefと複合体を形成することが報告された。それ故、Nefによる免疫異常にDOCK2-Racシグナルが関与する可能性が考えられる。 樹状細胞は、形態、表面マーカー、機能から形質細胞様樹状細胞(pDC)と骨髄型樹状細胞(mDC)の2つに大別される。pDcは、TLR7/TLR9を介して核酸リガンドを認識し、大量のI型インターフェロンを産生すると言う点で、近年注目を集めている細胞であるが、AIDS患者においてpDCが著減することから、その病態との関連性も指摘されている。我々はpDCにNefを強制発現させることで、その運動性が著しく障害されることを見出した。DOCK2はpDCの骨髄での分化には必須ではなかったが、DOCK2欠損マウスの2次リンパ組織におけるpDCの数は、野生型マウスと比較して著減していた。野生型pDCをSDF-1αやSLCで刺激すると活発に遊走したが、DOCK2欠損pDCはいずれのケモカインに対してもほとんど反応しなかった。この結果と一致して、野生型pDCではケモカイン刺激に伴い活性型Racが検出されたが、DOCK2欠損pDCではRacの活性化およびアクチン重合が障害されていた。以上より、DOCK2がpDCの遊走に不可欠なRac活性化分子であることが明らかとなり、Nefとの機能的関連性が示唆された。さらにpDCの活性化におけるDOCK2の役割についても詳細な解析を行った。
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