研究概要 |
SARSコロナウイルス(SCoV)は受容体ACE2に結合後、エンドゾーム(ES)に運搬され、酸性環境下で活性を示すcathepsin L (CPL)によりスパイク(S)蛋白が解裂・活性化され、ウイルスエンベロープとES膜の融合が起こり、細胞内へ侵入する機構がBates等により提唱されている。一方、我々はS蛋白の活性化を促すトリプシンやエラスターゼなどのプロテアーゼの存在下では、受容体結合した粒子S蛋白の解裂・活性化が起こり、細胞膜から直接細胞内侵入することを報告した。また、この経路はES経路と比べ効率良く感染拡大することを明らかにした。これらのことから、S蛋白の解裂は融合活性化には不可欠であること、また、解裂型Sを持つウイルスは細胞表面から侵入できることが示唆された。そこで、本年度はS蛋白に、様々な細胞で発現されている蛋白質分解酵素フリンの認識部位を導入し、細胞内で合成された後ER-Golgiで解裂が起こる組み換えS蛋白を持つVSV pseudotypeウイルスを用いて,細胎内侵入機構について検討した。S蛋白の複数の部位にフリン認識サイトを導入し、動物細胞発現ベクターに組み入れ、発現したところ、S蛋白の798・801に変異を導入したS蛋白が細胞融合活性を示した。変異の無い親株(wt)S蛋白は、トリプシン存在下でのみ細胞融合活性を示した。これらのS蛋白を持つVSV pseudotypeウイルスを作製し、その細胞侵入機構を検討した。Wt pseudotypeの感染は、ES内の酸性化を阻害する薬剤やCPL阻害剤により阻止されたが、変異Sを持つpseudotypeはこれらの薬剤に耐性を示し、直接細胞表面から侵入することが示唆された(Watanabe et al., J. Virol. 82, 11985-91, 2008)。これまで我々が行ってきた一連の研究から、SCoVの細胞侵入機構は、Batesらにより提唱された機構と良く一致することが明らかとなった。
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