研究概要 |
エイズの病原ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)のこれまでの感染者数は世界中で6千万人を越えており,毎年ほぼ5百万人が新たに感染している。エイズの治療は大きな成功を収めているが,実際の抗エイズ薬はHIVタンパク質を標的にしたものが主流である。現在のHIV/AIDS患者の治療で大きな問題となっているのは,薬剤耐性ウイルスの出現であるが,易変異性のHIVをターゲットにする限り,この問題は残る。その点,変異しにくい宿主側因子を標的にすることでその克服が期待される。 最近我々はHIV感染細胞において成熟HIV粒子の形成に必須な細胞側因子としてSOCS1を同定した。SOCS1はHIV Gagタンパク質と直接複合体を形成し,Gagタンパク質の形質膜への輸送や細胞内の安定化に重要な役割を果たすことが明らかとなった(Ryo et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.2008 Jan 8;105(1):294-9.)。また,最近我々は,atypical protein kinase C(PKCζ)がGagのp6のPTAP領域周辺をリン酸化し,宿主のESCRT系タンパク質との相互作用を制御することにより,ウイルスの粒子形成に必須の因子であることを見出した(梁,山本,投稿準備中)。本研究課題では,我々が独自に開発したきわめて効率のよいコムギ胚芽無細胞蛋白質生産システムと無細胞アルファスクリーンアッセイ系を活用し,上記の宿主因子に対する,阻害剤の探索を行っている。同時にこの系を用いて新たな候補蛋白の同定も遂行中である。得られた候補阻害物質とその誘導体については,in silico分子設計による宿主因子-HIVタンパク質複合体の立体構造解析に基づいた解析も行っている。さらにヒトCD34+血液幹細胞またはiPS細胞を用いた新規の感染動物モデルを作成し,抗ウイルス作用や生体への安全性,薬剤耐性について詳細に評価を行い,最終ゴールである新規エイズ薬開発をめざしている。
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