研究概要 |
世界最小のイオンポンプであるバクテリオロドプシンは、最も研究が進んでいるポンプ蛋白質であるが、そのポンプ機構は解明されたとは言い難い。本研究では、光駆動プロトンポンプの動作機構を解明するため、機能転換を含めた蛋白質の変異、光駆動ポンプ活性の計測、そして申請者のグループが世界に誇る赤外分光法を駆使した網羅的な研究を古細菌型ロドプシンに対して行った。特に、古細菌に存在するロドプシンだけでなく、真核生物や真正細菌から新たに見つかった古細菌型ロドプシンを主要な研究対象に位置付けた。 本年度の研究実績として主に以下のものが挙げられる。1, 真正細菌由来のプロトンポンプタンパク質であるプロテオロドプシンの細胞質側ループ部位にArgを導入したA178R変異体では、吸収極大波長が20mmほど長波長シフトした。これまでの常識に反し、発色団レチナールから25Aも離れた部位の変異が吸収スペクトルに影響するという特異な現象を発見した成果である(M. Yoshitsugu et al. Angew. Chem. Iht. Ed, 2008)。2, 生理的条件下では光センサーとしてはたらくが、情報伝達タンパク質が存在しない条件下ではプロトンポンプ活性を示すファラオニスフォボロドプシンについて、そのプロトン放出基の同定を全反射赤外分光計測により行った。その結果、Asp193が塩化物イオンの存在下でプロトン化しており、それが光反応中間体で解離することでプロトン放出を行っていることを明らかにした(Y. Kitade et al. Biochemistry 2008)。光反応を必要としないイオン結合誘起赤外差スペクトル計測は、他のイオン輸送タンパク質にも適用可能であり、汎用性の高い手法であることを示した。
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