小胞体関連分解(ER-associated protein degradation; ERAD)は、小胞体内でミスフォールドしたタンパク質がサイトゾルへ引き出された後、ユビキチン化を受けてプロテアソームで分解されるシステムで、細胞や個体における恒常性維持に重要であると共に、ERADの破綻は様々な病態と関連していることが知られている。酵母小胞体膜に存在するユビキチンリガーゼ(E3)であるHrdlpは、ERADを担う重要な分子としてERAD発見当初より研究されてきた。マウス、ヒトなどの哺乳類には、2つのホモログタンパク質、HRD1/synoviolinとgp78(glycoprotein 78)/AMFRが存在する。最近、酵母およびヒトにおいて、Hrdlpを中心としたERAD複合体がER膜上に存在して、小胞体タンパク質の品質管理を行っていることが報告された。さらに酵母において、糖タンパク質のERADに関わるレクチンYos9pが、Hrd3pを介してHrdlpと結合し、小胞体タンパク質の品質管理を行っていることが報告された。そこで本研究において、まずHRD1とgp78が形成する小胞体膜E3複合体の構成因子に違いが見られるかどうかを検討した。その結果私たちは、HRD1/SEL1L(酵母のHrd3pホモログ)を中心に、Yos9pのヒト・ホモログである2つのレクチンタンパク質XTP3-BとOS-9が、小胞体シャペロンタンパク質であるBiPをも含めた大きな複合体を形成していることを見いだした。この複合体の機能解析の結果、糖タンパク質のERADのみならず、糖鎖をもたないミスフォールドタンパク質の分解も制御していることが明らかになった。一方、gp78は、この複合体には含まれておらず、従ってHRD1/SEL1Lとは異なる機能を担っていると考えられた。 本研究の結果は、酵母と哺乳類における小胞体関連分解機序の異同を明らかにすると共に、小胞体からサイトゾルへの基質引き出しの分子機構解明にも繋がるものであると考えられる。
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