我々が新規に同定しかKspotは、N末端側にF-boxドメインをC末端側にSPRYドメインをもつF-box型ユビキチンリガーゼ群の新しいメンバーであり、神経系にのみ発現することが示されている。 Kspotのシナプス部位における機能を解明するため、電気生理学的解析を行った。ラット海馬神経細胞において、シナプス形成後Kspotを強制発現させてAMPA受容体の微小興奮性シナプス後電流(mEPSC)を測定した結果、vectorを導入した細胞と比較してmEPSCの頻度のみが40%の減少を示した。シナプス特異的マーカーを用いてシナプス形成異常の可能性を検討したが、シナプスの数には顕著な変化はなかった。次に神経伝達物質の放出機構に異常が起きている可能性を疑い、細胞外のCa^<2+>濃度を2mMから10mMに上昇させて実験したところ、Kspot強制発現によるmEPSC頻度の減少が見られなくなった。これら結果は、成熟したシナプスで起こる神経伝達物質の放出に対してKspotが抑制的に作用していることを示唆している。以上の知見をふまえ、シナプス前膜において神経伝達物質の放出に関わる既知の因子について、Kspotとの結合実験を網羅的に行ったところ、Munc13-1と結合することがわかった。培養細胞においてKspotおよびMunc13-1を共発現させたところ、Munc13-1のタンパク質レベルがKspot発現量依存的に減少したことから、KspotによりMunc13-1が分解に導かれている可能性が強く示唆された。現在、KspotがMunc13-1の分解を介して神経伝達物質の放出を抑制するという仮説に基づき、より詳細な解析を行っている。一方、Kspotコンディショナルノックアウトマウスについては、キメラマウスの作成が完了し、交配によるヘテロマウスの作成を開始した。
|