研究概要 |
真正細菌から見つかったアナベナセンサリーロドプシン(ASR)は、水溶性の情報伝達タンパク質と相互作用し、新奇情報伝達経路を活性化する。古細菌の負の走光性受容体であるフォボロドプシン(pR)が、走化性受容体MCPファミリーに属するHtrIIと膜内で複合体を形成していることと対照的である。本研究の目的は、ASRがpRと異なる情報伝達経路を活性化する分子機構を高精度な赤外分光計測で明らかにし、古細菌型ロドプシンの分子進化過程でのモーダルシフト機構を解明することである。 本年度の研究実績として主に以下のものが挙げられる。1, ASRのL中間体形成時の構造変化を解析し、細胞質側表面近傍に存在するGlu36や近傍の水分子の水素結合変化を見いだした(A. Kawanabe et al., Biochemsity, 2008)。従来の古細菌型ロドプシンでは見られない構造変化であり、ASRが水溶性タンパク質と相互作用するために獲得した機構ではないかと考えている。2, pRの光情報伝達がレチナールC14位とThr204との立体障害により開始されることを明らかにした(Ito et al., Biochemistry, 2008)。3, 真正細菌Salinibacter urberから新たに見つかったセンサリーロドプシンIについて、その光反応サイクル(T. Kitajima-Ihara et al., J. Biol. Chem, 2008)、光誘起構造変化の解析(D. Suzuki et al, Biochemistry, 2008)を行った。4, pRの全反射赤外分光計測により、Asp193が塩化物イオンの存在下でプロトン化していることを明らかにした(Y. Kitade et al., Biochemistry 2008)。イオン結合誘起赤外差スペクトル計測は、他のセルセンサータンパク質にも適用可能な汎用性の高い手法であることを示した。
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