交付申請書に記載の研究計画にしたがって、紫外光感受性視物質の量子収率(光異性化効率)を測定し、さらに可視光感受性および紫外光感受性視物質において蛋白質が発色団の光異性化効率を制御するメカニズムの解明を試みた。 プロトン化したRSBは正に荷電している。このRSBを持つ視物質では、RSBの近くに存在する解離したグルタミン酸残基(E113)が対イオンとして働き、プロトン化RSBを安定化している。一方、紫外光感受性視物質でもこのグルタミン酸は保存されている。まず、可視光感受性視物質であるウシロドプシンのグルタミン酸残基をグルタミンに置換し、人工的にRSBを脱プロトン化させた視物質を作製して量子収率を測定した。その結果、もとのロドプシンの量子収率が大きく低下した。一方、マウスの紫外光感受性視物質(マウスUV)の量子収率はウシロドプシンの変異体よりも有意に高い量子収率を示したが、驚いたことに、マウスUVの113番目に存在するグルタミン酸をグルタミンに置換したところ、量子収率が大きく低下した。以上の結果から、高効率な光異性化の実現には、当初我々が推定したシッフ塩基のプロトン化状態は関係がなく、113番目にグルタミン酸(E113)があるかどうかが重要であることが示唆された。そこで、マウスUVとニワトリの紫感受性視物質(ニワトリ紫)を実験材料としてさらに検討した。その結果、E113を変えずシッフ塩基のプロトン化状態を変えた変異体の量子収率は野生型とほとんど変わらなかった。一方、E113Q変異を導入したところ、マウスUVおよびニワトリ紫の両方において大幅に量子収率が低下した。この結果から、E113が可視光感受性および紫外光感受性のん両方の視物質において光異性化の促進に関与していることが明らかとなった。
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