研究課題
社会生昆虫は、カースト分化がみられ役割分担をするワーカーやオスが女王を中として統制のとれたコロニー集団を形成している。コロニー同士のワーカー個体は同種であっても、異巣の相手を識別し攻撃することができる。相手を識別する指標になっているのは体表の炭化水素であり、それを感知する特殊な感覚子が触角に存在する。クロオオアリでは当該感覚子当たりの神経細胞数は約130個で、その神経が脳内投射する一次嗅覚中枢の触角葉における領域を構成する子球体の数もこれに丁度対応していた。このシステムによってさまざまな炭化水素成分で構成される異巣の匂いパターン判別がされ攻撃行動が誘起されると推測されるので、触角葉のこの領域はクロオオアリの「社会的攻撃性センター」と呼ぶことができる。触角葉の構造をカースト別にみると、オスはこの領域を持たず、攻撃性に乏しいことが明らかになった。この違いをもとに、現在、クロオオアリの触角や触角葉で、オスとワーカー(メス)の差を分子レベルで調べようとしている。一方、単女王制のコロニーを作る種のクロオオアリとスーパーコロニーと呼ばれる多女王の融合巣をつくるエゾアカヤマアリでは、攻撃と受容の行動切り替えに差があると考えられた。後者はより寛容でなければ巣を融合することはできない。そこで、異巣個体攻撃に関して、野外での行動実験と、当該感覚子の応答性を測定する電気生理学実験を行い、営巣形態の異なるこの2種を比較した。その結果、単女王制の種では殆ど異巣個体の炭化水素に限って応答する当該感覚子が敵味方を一義的に区別しているのに対し、多女王制の種では、当該感覚子の応答は参照されるが、敵味方の判別において決定的ではなく、脳内の攻撃行動閾値の設定に即して実際の攻撃が引き起こされることがわかった。
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Zoological Science 25
ページ: 195-204
PLos. ONE Issue8,e661
ページ: 1-7