研究概要 |
植物の匂い応答について、官能基に関するある程度の特異性が見いだされるが、シロイヌナズナでの検討によりシロイヌナズナ葉が(R)-(+)-1-オクテン-3-オール(カビ病菌由来揮発成分の天然型光学異性体)にも、(S)-(-)-1-オクテン-3-オール(非天然型)にもほぼ同じように応答し、厳密な構造特異性が見いだされないことを明らかにした。また、H_2O_2生成の可視化色素であるジアミノベンジジンを使った観察により揮発性化合物に曝した植物葉ではH_2O_2が組織全体で生成・蓄積していることが認められ、このH_2O_2生成がNADPHオキシダーゼ活性に依存していることを明らかにした。また、エクオリン発現シロイヌナズナを用いた検討により揮発性化合物処理で細胞外からのカルシウム流入が増大することを確認した。但し、H_2O_2生成とカルシウムの流入は反応性の高いA,B不飽和カルボニル構造を持つ(E)-2-ヘキセナールで特に顕著に見られ、またかなり高濃度を要する。こうした応答は野外生態系でのケミカルセンシングとは異なり、生体異物の解毒反応の一環と考えるべきであろう。ただ、この場合でも何らかの機構で生体異物の認識を行っているはずで、現在、GST1の発現を指標としてその認識機構の解明を進めている。一方で野外生態系での匂い応答についても検討を進めた。灰色カビ病菌感染、非感染シロイヌナズナを野外で供置し、感染特異的香り物質に曝した後、灰色カビ病抵抗性を評価したところ、曝露植物で抵抗性の上昇が認められ、野外開放系で放散された香り物質を植物が受容できることが示された。ただし、供試した16植物体のうち抵抗性誘導が見られたのは10植物体で、残りの6植物体は誘導されなかった。おそらく、野外での風向き等が重要な因子となっていると考えられた。
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