研究概要 |
(E)-2-ヘキセナールと同様にα, β-不飽和カルボニル構造を持つメチルビニルケトン(MVK)をモテル化合物として無傷シロイヌナズナを曝露すると、灰色かび病耐性が付与された。この時、グルタチオンーS-トランスフェラーゼ遺伝子発現量をモニターすると、MVK曝露だけではあまり大きく誘導されないが、曝露後に灰色かび病菌を接種するとコントロール植物に比べ顕著に発現が増大した。これはMVK曝露が植物に潜在的耐性を誘導した、いわゆるプライミング現象といえる。一方、(Z)-3-ヘキセナールを始めとしたみどりの香り関連化合物の防御遺伝子誘導能力を評価するためにみどりの香り生成能が欠失した変異体を調製し、機械傷処理により防御関連遺伝子の誘導を検討した。その結果、一部の遺伝子誘導が顕著に低下し、そうした低下が傷口にみどりの香りを塗布することで回復することが明らかになった。このことから、(Z)-3-ヘキセナールなどのみどりの香りが遺伝子誘導を行う生理活性物質であることが確認できた。植物を(Z)-3-ヘキセナールの蒸気に曝露するとその一部が植物に直接取り込まれた。この際、アブシジン酸で気孔を閉じてもその取り込み量が20%程度しか低下しなかったので、多くは植物組織に浸潤することで取り込まれていることが明らかとなった。こうして取り込まれた(Z)-3-ヘキセナールは直ちに(Z)-3-ヘキセノールや4-ヒドロキシー(E)-2-ヘキセナール(HHE)へと変換された。(Z)-3-ヘキセナールの化学反応性から考えると(Z)-3-ヘキセノールへの還元はその反応性を低下する解毒作用と考えられる一方、HHEの生成はその反応性をより高めることになり、ほ乳動物の酸化ストレスセンシングと同様にHHEが細胞内タンパク質やレドックスセンサーを修飾することが引き金となって防御反応が誘導される可能性が示唆された。
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