本研究は、膵β細胞における"グルコース代謝-細胞膜興奮・分泌"連関分子としてのTRP・Kvチャネルを介した新たなインスリン分泌制御機構を解明し、その細胞生理学的意義(センサー機能)およびシステム生理学的意義(糖代謝調節)を明らかにすることを目的とする。 1.非選択的KvチャネルブロッカーのTetraethylammonium(TEA)やKv2.1チャネルブロッカーのStromatoxin(ScTx)およびGuangxitoxin-1Eは、ラット分離膵島からのグルコース(8.3mM)誘発インスリン分泌を促進したが、低グルコース条件下での基礎インスリン分泌には無効であった。 2.Kv1.3チャネルブロッカーのMargatoxinやCa^<2+>活性化K^+チャネルのブロッカーであるCharybdotoxinはラット膵島からのインスリン分泌に影響しなかった。 3.TEAおよびScTxはラット膵β細胞の遅延整流性K^+電流(Kv電流)を抑制し、このKv電流は生理的インスリン分泌抑制ホルモンのグレリンによって活性化し、dibutyryl-cAMPおよびprotein kinase-A(PKA)活性化剤の6-Phe-cAMPによって抑制された。 以上の結果から、膵β細胞ではKv2.1チャネルがグルコースセンシングーインスリン分泌連関の調節因子(センサー)として機能しており、β細胞の興奮性を制御していると考えられる。また、グルコース代謝によって生じたcAMP-PKAシグナルがKv2.1チャネル活性を制御することが示唆された。
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