NMDA受容体のGluN2BとGluN2Dは発達段階に発現する2つのサブユニットである。本研究では、この2つのサブユニットの機能的差異について、GluN2BヘテロマウスとGluN2Dホモ欠損マウスの体性感覚系の回路発達を比較した。同腹のコントロールマウスでは、三叉神経核脊髄路核のバレレットは出生日(PO)に、視床のバレロイドはP2-P3、体性感覚野のバレルはP4-P5に出現した。これに比べ、GluN2Bヘテロマウスではそれぞれ1日遅れて出現し、GluN2Dホモ欠損マウスでは1日早まった。片側眼窩下神経切断による臨界期終了時期を検討したところ、GluN2Bヘテロマウスでは1日遅れて終了し、GluN2Dホモ欠損マウスでは1日早まった。したがって、体性感覚路全般に渡って、GluN2Bはシナプス回路の形成と改築を促進し、対照的にGluN2Dはこれを遅延させていることが判明した。転写レベルでは、GluN2Bは前脳にGluN2Dは脳幹に豊富に発現することが判っている。特異抗体を作成してそのニューロン発現とシナプス局在を検討したところ、成体期の三叉神経核・視床・体性感覚野のいずれにおいても、GluN2Bは主にprincipal neuronに発現し、その非対称性シナプスのシナプス後部に局在した。これに対して、GluN2DはGABA陽性ニューロンにほぼ選択的に発現し、その非対称性シナプスのシナプス後部に局在していた。同様の細胞発現パターンは、生後第1週においても観察されたことから、GluN2Bはprincipal neuronに発現してそれが作る興奮性シナプス回路発達を促進し、GluN2Dは抑制性ニューロンに発現して興奮性ニューロンによるシナプス回路発達を遅延させると結論した。
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