マウスの病原性突然変異型mtDNAを探索する過程で、マウスmtDNAの特殊な病原性突然変異が、がん細胞の転移能獲得に重要な役割を果たしていることを突き止めた。この研究成果は4月4日付けで米科学誌サイエンスのScience Express web siteに掲載され、マスコミでも大きく報道された。ミトコンドリア呼吸酵素複合体Iの活性を低下させるという特殊な病原性突然変異がmtDNAに生じることにより、ミトコンドリアのATP合成機能が低下するだけでなく、それに伴って生じる活性酸素種(以下、ROS)の増加によって核DNAにコードされた幾つかの遺伝子の発現量が増加するという一連の過程を経て、最終的にがん細胞の転移能が可逆的に上昇することをマウスのがん細胞を使うことによって明らかにした。また同じような現象がヒトのがん細胞に存在することも明らかにした。 本研究成果の重要性、新規性は以下の2点にまとめることができる。1)mtDNAの突然変異が転移能に関わっていることを証明した。これはmtDNAがATP合成以外の生命現象に関与することを示した初めての報告である。2)野生型mtDNAによる置換や抗酸化剤の処理によって、一度獲得した転移能が可逆的に抑制されることから、mtDNAの突然変異によって誘導される転移に対する有効な治療療法の開発が可能であることを証明した。以上の研究成果をベースに、今後はマウスの転移性がん細胞に存在するこのような特殊な病原性突然変異型mtDNAをマウスES細胞に導入することで、このようなmtDNAを100%持つマウスを作製し、病態発症の有無を検討する予定である。
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