エジプト、メンフィス・ネクロポリスは世界で最も遺跡が集中する地域であり、1970年代からユネスコの世界遺産に登録されている。しかし、この遺跡群は近年さまざまな遺跡劣化の問題が表面化しつつあり、遺跡の保存修復、整備に関する要請が高まっている。本研究はこのような状況を踏まえ、当該遺跡群の遺跡の重要性を理解し、将来的に影響を及ぼす要素の現状を把握し、最終的には遺跡整備計画を提示することを目的とする。2008年度では、メンフィス・ネクロポリスにおいて早稲田大学が実施している2つの遺跡、アブ・シール南丘陵遺跡とダハシュール北遺跡を中心に調査を行った。まず、アブ・シール南丘陵遺跡では、7月下旬から9月下旬までと2009年2月に調査を実施した。調査の内容は遺跡の重要性の理解のための考古学的発掘調査、地下埋蔵文化財の探査、周辺遺跡の保存修復の現状を理解するための踏査、人工衛星からのリモート・センシングによる遺跡の観測結果との照合のための調査、三次元測量実施のための予備調査、出土遺物の保存修復作業および管理、出土遺物のX線化学分析等を実施した。ダハシュール北遺跡では、考古学的発掘調査、劣化・崩壊が危ぶまれる緊急の保護作業、地下遺構の環境、害虫などの現状調査、地質学・岩盤工学的観点から観た遺跡の地盤調査、地下埋蔵文化財の探査等を実施した。 これら調査の成果については、2回の研究会が開催され、刊行物が準備された。国内では、上記の調査の成果を有機的に統合し、最終的な目的とする遺跡整備計画策定の核となる地理情報システム(GlS)の導入、データ・ベース構築に向けた検討作業を行った。今年度は、アブ・シール南丘陵遺跡とダハシュール北遺跡の重要性、遺跡の保存修復上の問題の現状把握をさらに進めることができた。本研究が他のメンフィス・ネクロポリス地域の遺跡管理計画のモデルとなることが期待される。
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