本研究は、エジプト、メンフィス・ネクロポリスの遺跡保存整備計画策定のための学際的な研究である。2010年度のエジプト現地における調査は、2011年1月から2月に予定していた調査が革命の影響で延期となったので、2010年8月から10月にかけて実施された第19次ダハシュール北遺跡調査のみとなった。 ダハシュール北遺跡はほとんどが地下の遺構で占められており、保存整備計画ではこうしたアクセスが難しい遺構を保存していく一方で、調査によって得られたデータを効果的に開示していく方法を検討することが課題となっていた。その1つの試みとして、インターネットのコンテンツを用いて地下の遺構を公開するシステムを構築した。Google Earthと写真データを含むデータ・ベースを連携させ、視覚的に分かりやすい形で遺跡の情報を提示し、検索機能を付加することで条件にマッチする遺構のみを表示させることを実現した。また、インターネットにデータ・ベースがあることを利用し、QRコードを利用した遺跡の案内表示が可能となった。QRコードを使用することで、遺跡の景観を損なう表示を排除することができ、常に最新の案内表示をインターネットから取得することが可能になった。ダハシュール北遺跡のように地下の遺構で占められる遺跡に対して、有用な整備方法の一端を提示することができた。 また、ダハシュール北遺跡から出土した中王国時代の人型木棺の保存修復作業を行った。また、その他の遺物に関しても記録作業を行い、保存整備計画に向けた基礎データの収集を継続した。 日本国内においては、メンフィス・ネクロポリス遺跡のGIS(地理情報システム)の開発とデータ・ベースの構築を継続した。また、過去3年間の成果をまとめた中間報告『エジプト、メンフィス・ネクロポリスの文化財保存面から観た遺跡保存計画の学際的研究研究報告集第1号』を刊行した。
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