本研究の最終年度は2011年度であったが、2011年1月のエジプト革命により調査の延期を余儀なくされ、2012年度に研究費を繰り越し調査研究を継続した。革命後の新政権下でのエジプトは、治安の悪化が進行し各地の遺跡で大規模な遺跡破壊や盗掘が横行し続けている。このような状況に鑑み、本研究は遺跡破壊および盗掘活動の現状と今後の保護策を提言することを新たな課題として盛り込んだ。マクロな視点でGoogle Earth等による人工衛星の画像解析から過去の衛星画像との比較により2011年1月以降のメンフィス・ネクロポリス各遺跡の現状の把握に努め、ミクロな視点で治安上の問題もあるので可能な限り現地での踏査を実施した。また、近年エジプト考古省によって遺跡の管理計画が進展しており、ギザやサッカラを中心に大きな変化が見られた。これらについても批判的に評価し、今後の遺跡整備の課題が検討された。 アブ・シール南丘陵調査では、当該遺跡の公開を想定した遺跡整備の方策として、試験的に開発したスマートフォン・アプリとQRコードによる遺跡情報提供の手法を現地で試みた。その他遺跡整備計画の策定に必要な調査研究を実施する一方で、具体的な遺跡整備作業の一環としてイシスネフェルト墓の埋葬室にある彩色石棺の修復作業を実施した。 ダハシュール北遺跡においても保存整備計画案を策定するための各種研究を実施した。墓地遺跡であることから遺構のほとんどが地下にあり、通常の公開方法では特徴を伝えにくいという問題から、インターネットによる遺跡情報の公開を提案し、実際に公開用のシステムを構築してその長短について検討した。結果、ネット公開には通常の遺跡公開では伝達が困難な情報を見る側に与えられることがわかった。また、過去の発掘調査において未盗掘で発見された重要遺物の劣化を防ぐため、保存修復作業を実施した。
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