本研究では、InGaN/GaN発光素子やプラズモニック結晶を電子線励起したとき放射される光の観測を行い、光と電子の相互作用におけるエネルギーと運動量ベクトルの保存を利用してナノ構造中の励起子や表面の素励起の性質を明らかにする。19年度は、既設の光検出器を装備した透過型電子顕微鏡(JEM2000FX)を主要装置として実験を行った。金属表面を伝播する表面プラズモンポラリトン(SPP)が表面ステップにより光に変換される過程を、半面カットした放物面ミラーによる角度分解発光スペクトルの測定から調べた。角度分解スペクトル像の解析からSPPの分散関係が得られることが分かり、測定データの解析結果は光学データから求めた銀表面のSPP分散曲線と良い一致を示した。この結果から本研究で用いた手法が、局所構造やプラズモニック結晶におけるSPPの分散関係を求める手法として有効であることが分かり、今後の応用への基礎を固めることができた。また、InGaN量子井戸層を表面近傍に含むGaN成長膜からの発光についても、発光の偏光依存性と放射角依存性から格子欠陥が発光に及ぼす影響を調べ、転位周囲の応力場が偏光の原因であることを明らかにした。 また、次年度の高分解能電子顕微鏡に用いる光検出システムの整備を行った。集光用には試料に対し電子線の入射側と反対側の両方の空間に放射される光を集光できる放物面ミラーを設計・製作した。ミラーと検出器との間に偏光素子および放射角分解用マスクステージを含む光学系の設計を行った。さらに、電子顕微鏡内で発光の空間分布(フォトンマップ)と対応した表面モフォロジーを観察するための装置として、電子顕微鏡用後方散乱電子検出器を導入した。
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