今年度は、カーボンナノチューブ量子ドットを用いた独自のテラヘルツ波検出技術について研究を行った。また、テラヘルツ波を効率的に受けるためにデバイスにアンテナ構造をつける技術の開発も行った。研究成果は以下の2点である。カーボンナノチューブ単電子トランジスタを、GaAs/AIGaAs2次元電子ガス(2DEG)基板上に作製したデバイスの低温(液体ヘリウム温度)、強磁場下におけるテラヘルツ応答を調べた。なお、このデバイスにはアンテナ構造はついていない。その結果、カーボンナノチューブ単電子トランジスタのクーロン振動ピークが、テラヘルツ照射下で、磁場とともにシフトすることを見いだした。そのピークシフトはある一定の磁場で最大となり、さらに磁場を印可すると反対方向へ戻るようにシフトする。テラヘルツ周波数を変えても同様のピークシフトが観測されたが、最大ピークシフトを与える磁場が異なることが観測された。データを解析すると、最大ピークシフトを与えている磁場では、2DEGのサイクロトロン共鳴条件が満たされていることがわかった。このことは、テラヘルツ波はカーボンナノチューブ単電子トランジスタに作用しているのではなく、その下にある2DEGに作用しており、サイクロトロン共鳴により電子が上のランダウ準位へ励起されることにより電荷分布が変化し、超高感度エレクトロメータとしてのカーボンナノチューブ単電子トランジスタがそれを検出しているという機構で説明できる。このようなテラヘルツ検出機構はこれまで全くなく、超高感度なテラヘルツ検出器への応用が期待できる。なお、ボータイアンテナを基板上に作ることを試みたが、大きな領域を電子線描画する際にレジスト内で散乱され手拡散する電子がカーボンナノチューブにダメージを与えることを突き止め、電子線描がプロセスの改良を進めている。
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