カーボンナノチューブ(CNT)量子ドットと電磁波の相互作用において、特に開発が遅れているテラヘルツ領域の電磁波との相互作用に焦点を絞り、将来の高機能検出器への応用を目指して新しい検出メカニズムの研究を行った。これまでの研究で、量子ドットを電荷を高感度に検出する単電子エレクトロメータとして用い、テラヘルツ波により基板の量子ドット近傍に励起された電荷の変化を読み取ることが可能であることがわかったことにヒントを得て、それを積極的に利用する試みを行った。すなわち、基板上に焦電材料であるPZTをスパッタ蒸着し、テラヘルツ波の照射によって生じる局所温度上昇による誘電分極を、CNT単電子トランジスタのクーロン振動のピーク位置の変化として読み取る方法である。今年度は、PZTのスパッタ蒸着とその上にCNT単電子トランジスタを作製するプロセスの開発を行った。スパッタにより成膜したPZT層は、成膜直後は圧電性の弱いパイロクロア相であるため、600度以上で高温アニールを行い、強い圧電性を示すペロブスカイト相を得た後に、その表面へCNT量子ドットを作製した。CNT量子ドット直下に存在するPZT層により、外部電界印加方向に依存したクーロン振動のシフトを観測するとともに、数ヘルツにチョッピングされたテラヘルツ波照射によっても、同様なクーロン振動のシフトを観測することに成功した。これは成膜したPZT層が示す分極・焦電特性による微小表面電荷の変化を、高感度電荷センサーであるCNT量子ドットを介して検出する事に成功したものであり、本研究で作製した素子が、テラヘルツ波の検出に対して有効であることを強く示唆した研究成果である。
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