我々が独自のゲノムワイドマイクロサテライト相関解析の結果同定した摂食障害感受性遺伝子であるCNTN5、SYT12、NETO1、PARK7は何れもが神経系で機能すると推測されている。そこで本年度はそれらの遺伝子の分子機能を明らかにし、疾患に関わる生物学的ネットワークを同定する目的で、従来法の10倍程度の検出力を持つ新たな酵母ツーハイブリッド法を独自に開発し、これを用いて相互作用因子解析を行った。SYT12、及び、NETO1について、各々148個、及び、73個のYTH相互作用因子を同定することができた。さらに、驚くべきことに、これら2因子の相互作用因子のうち43因子が共通であった。従って、構造的には類似性が認められないこれらの因子は、インテラクトームの視点からは高い類似性を持ち、共通の生物学的機能に関与していると考えられる。さらに、SYT12のYTH相互作用因子として、SH3GL3(摂食行動と関連が深い疾患である糖尿病の感受性遺伝子として我々が先に同定した遺伝子)が同定され、これらが直接相互作用することが示唆された。これらSYT12、NETO1、SH3GL3のYTH相互作用因子に特徴的な点は、シナプス小胞のリサイクリング・開口放出に関連するものが数多く含まれている点である。例えば、SNARE complex member 1、Syntaxin (STX)8/17/18、Sorting nexin 1/2/6/7、Synaptojanin 1、Carboxypeptidase E、Synaptobrevin、Dynamin1等が含まれる。この結果は、これらの遺伝子の機能に関する次のような既知の情報とも符号する。即ち、SYT12は、神経伝達物質やホルモンの放出に関与するシナプトタグミンファミリーの遺伝子であるが、特に、「自発的な神経伝達物質の放出」に関与する可能性が指摘されている。また、NETO1ノックアウトマウスでは長期増強LTPに変化が見られ、さらに、SH3GL3はシナプス終末に局在するエンドサイトーシス関連因子である。従って、この相互作用解析の結果、摂食障害の疾患カスケードの起点として、シナプス小胞のリサイクリング・開口放出のプロセスの重要性が明らかになった。さらにSYT12とSH3GL3との相互作用は、摂食障害と糖尿病の分子的なリンクの可能性として興味深い。
|